アナタの存在が大きくなる秋

次第に温もりを覚えてく
夏休みも終わって 秋
アナタと二人で飲みに行くことになった
すごくすごく緊張して
あたしらしくないって自分に叱咤して

飲みに行って
カラオケ行って
ゲーセンで遊んで

何だかんだで我侭きいてくれて
はしゃぐあたしに呆れた顔してても
ちゃんと付き合ってくれたり
あたしが好きだって言った曲
こっそり入れてくれたり

一緒にいる空間が心地よくて
それでも憎まれ口を叩いてしまうんだ

アナタはまた呆れたように笑って
よしよし、って頭を撫でてくれた

俯いて蹴り飛ばしてみたけれど
顔が赤くなったのは全然隠せてなかった


そしてあたしは



(アナタが欲しい、と想ってしまった)

家のドアはどんなものより重い

ご機嫌伺いの家の中
ご機嫌伺いの家の中

何時も親の前が怖かった
いい子のあたしはよくて
普通のあたしはダメで
都合悪いと何時も見て見ぬフリ
だから頑張らなきゃ
でないとまたあたしを殺される
そう思って家の中を生きてきた



我慢し続けたら何か良い事があるの?
何か得られるの?
それで楽しい?



アナタの言葉に答えられない自分がいた
上手に自分の形を作れないあたしは
思った以上に不細工で汚らしい

わかっているのに
それでもあんな思いはもう二度とって
すぐに怯えてしまうんだ


好きにしたらいい、と言われた
そんなこと、今まで言われたことなかったや
嬉しかったよ
ホントにホントに、嬉しかったよ



(ホントにホントに、嬉しかったんだよ)

日常の中のアナタ

大学で時々見かけて
声をかければ目をほそめて ああ と言う
すごい目が悪いくせに
眼鏡は授業中にしかかけなくて
初めて会った時にしてたカラコンもしばらくしてなかった
つければいいのに、と言ったあたしに
色んなものが見えてヤダ、とアナタは言った


アナタはあたしじゃ届かない
とても深い深い闇を抱えていたんだね

知らないあたしは
どれだけアナタを置き去りにしてしまったんだろ


ただあたしは目の前の幸せを抱きしめていた



(それをどれだけ後悔することになるかも知らずに)

深夜の電話

何となく日常の中に組み込まれて

いつもあたしは元気なふりをしていたけれど
その日だけ アナタは流されてくれなかった

ここにいるよと言われた瞬間に
なんで泣かないのと言われた瞬間に
ああダメだと思ったの

ああ、あたし泣いてしまうなぁ
そんな冷静に自分のことを想う自分がいて

すぐ傍にいられなくてごめん
そう言ってくれた彼に
これ以上何を求めてしまうんだろう、と



(この気持ちをなかったものにしてしまいたかった)

哀しみの後の喜び

大学に入って2回目の学祭の日
友達から電話がかかってきた
それは哀しいというより
身が引き裂かれるような知らせの電話だった

何であの時、なんて
後悔ばかりが押し寄せてきて
泣いて状況が変わるわけでもないけれど
わんわん泣いてしまった



通りかかったアナタが
何も言わずにそっと頭を撫でてくれたから
少しだけ止まった涙が
また零れ落ちてしまったんだ



(止める術をあたしは今だけ知りたくない)

その強さを忘れない

気がつけばアナタといる時は
いつも泣いていた気がする


せっかく時間を作ってくれたのに
あたしは上手に笑えずに
しきりに大丈夫を繰り返していた

あなたは泣いてしまっている右手を握って
十分頑張ってるよと
支えるからと言ってくれた

だけどね

頑張らないと立ってられないんだ
他の方法がわからないんだ
もっと頑張らないと
この場所での存在意義を見出すことなんてできないよ

ゴメンネと呟いたその言葉は
まぎれもなくアナタを否定する言葉


アナタが出て行くその背中を
あたしは見ることなんてできなかった


(もう一度呟く「ゴメンナサイ」)

あたしだけの約束

11月14日
あたしの20歳の誕生日

特別な日だから
我侭聞いてあげるよ、と言ったアナタ

じゃあ一緒にいてよ、と冗談っぽく言ったあたし

わかったと言われてうろたえたのはあたしの方
どうしよう
思ったよりすんなり通ってしまった

すっごくすっごく小さな我が儘だったのに


その代わり
あたしがアナタの我侭きいてあげるから
考えておいてと言ってみた
アナタは笑ってうんと言ったけれど


知ってるよ
ホントは考えてくる気なかったんでしょう?
あたしがこれ以上気を使わないようにって
想っててくれてたんだよね



(気づくのはずっと後になっちゃったけど)

一番最後の「おめでとう」

誕生日当日
夜になって
大学近くの公園で落ち合った

いつも通りのあたし
いつも通りのアナタ

でもすぐにそれは見破られてしまった
本当はわかっていたことだったけど

静かに時間はすぎて
もうすぐ14日が終わろうとしている

手を握ってアナタは言う
本当にそれでいいの?
作り笑顔をしながらあたしは言う
それをあたしに言うの?

するとアナタは笑いながら言った



今日は貴女の日なんだから
我侭を言ってもバチは当たらない
俺だけしか知らないんだから
言いたいことは言いなさい



あたしが出したのは
一粒の涙と3文字の弱音
アナタは優しく
あたしを抱きしめてくれた

次々と零れるひどい泣き言を
アナタは一つ一つ掬って
何も言わずにただ
傍にいてくれたんだ


ああ、君はきっと知らないでしょう



(温もりって、一回覚えたら忘れられないんだよ)

いつだって気づかせてくれたのは

いつもの公園で
同じことを繰り返す
肝心な時によりかかれないのは
裏切られる記憶を引き伸ばし続ける
あたしのちっぽけな弱さのせい


「立つことのできない人間が、泣いてる人を救えるの?」
とアナタはあたしに言って
「それを隠してあたしは立ち続けてみせる」
とあたしはアナタに言った


アナタの顔は暗いせいで見えなかったけれど
きっと哀しい顔をしていたんだろう

少しずつ昔の感覚がよみがえってきて
少しずつ昔に戻っていくあたしを
アナタは「諦めない」と言ったよね

あたしはそれを聞いて
「諦めなきゃいけないこともある」と言った
立たなきゃ、と思っていたんだ
立たなきゃまた同じことが起こると思ってた
でもそれはきっとちがうんだよね


とても大きな大きな独り言
誰にも言ったことのないその独り言を
アナタは黙って聞いて
あたしに答えてみせた

少しずつだけど
やっとその意味がわかった気がしていたんだ



(その時は気づけなかった、アナタの想い)

決断をせまられて

スキだ、と言った
付き合って、ではない告白

アナタが誰とも付き合う気がないのは知っていたし
自分のこともままならない状態で
誰かに自分を預けることはしたくなかった


アナタは言った「ありがとう」
今でも簡単に思い出せるんだ


今日こそは と突き放すつもりで
呼び出して話をして
どうしても帰らないアナタを無理矢理追い出して
それでいいと思ってたけど
いつでもおいでと
いつ来ても大丈夫なようにしておくからって
後からメールが来て
思わず泣いてしまった


アナタはあたしをすごいと
気持ちを押し付けないのをすごいと
そう言ってくれたけれど
全然そんなことない
ただこれ以上踏み込むのが怖かっただけなんだ


そしてその言葉を信じきって
あたしはアナタに甘えてばかりだったよね



(今なら言えるのに、気づけるのに)
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