初めて君と繋がる夏

季節は流れて暑い八月
大人数で静岡に行ったサークルの合宿
それまで全然参加してなかったアナタを
みんなどうやって接していいかわからなかったんだ
でもアナタは気にしてないように
いつもどこかふらふらと出かけていた

お酒の席で初めて会話を交わした
「名前は?」
「どこに住んでるの?」
「兄弟いる?」
「アドレス教えて」

すごい質問攻めだったのに
アナタは笑って答えてくれた

アタシのケータイをもつ左手が
あんなに震えていたのにも気づかずに



(おかしいな、人見知りはしないんだけど)

合宿が終わって

何となく家に帰れない雰囲気
皆でおしゃべりしていたら
家から電話がかかってきた
お決まりの夫婦喧嘩
巻き込まれた妹からのSOS

またかよって
ふざけるなって
妹にぶつけてもしょうがないのにイライラしたりして
思い切り怒鳴りつけてた
家に戻りたくなくて
その場でずっとしゃがみこんでいた

大分時間がたって
アナタのそろそろいかなくちゃ、に便乗した
動き出す言い訳が欲しくて
ホントは日常に戻らないといけないことぐらいわかってて

帰り道、目一杯明るく振舞った
アナタは変わらず優しく笑っていて
そのままじゃあね、とお別れ

溜息をつきながら乗り込んだ電車
こんな時にがらんとしていていやになる
溜息をついた瞬間に
ケータイが泣き出したんだ



家に帰るのがイヤなのもわかるけど
今日は早く帰って寝ちゃいな

ゆっくりおやすみ



ねえ、アナタは知らないけれど
あのメール、今でもずっとずっととっておいてあるんだよ



(元気が出ないときはそっとメールを呼び出して)

好きな人がいたの

その頃あたしには大好きな人がいて
でも結局ダメになってしまった

電話の先で何も言えないでいたあたしに
アナタはいつもどおりに接してくれて
大丈夫、と言ってくれた


眠れない夜
淋しい時間
人と繋がりたい想いを抱いたときは
アナタに送った「何してる?」
なのにアナタは
いつでもメールしてかまわないから
いつでも逢えるよ、逢いに行く
だから大丈夫、と


アナタの言葉
どれだけ力になったかわからない
ありがとう、を嬉しそうに受け取ってくれるアナタが
何よりも愛しかった



(そんなの言われたことなかったから、)

月に一度のサークルの撮影会

いつもメールしてるのに
緊張しながら誘ってみた
返事はOK
ピクニックをかねた撮影会だったから
ケーキを焼いて持っていくことにして

ただいつもの恩返しだって
自分に言い聞かせながら
それでもどんな反応してくれるのか
期待と不安を生地に混ぜながら
早く次の日にならないかなぁ なんて
自分でも笑っちゃうようなことを想ってたよ



(いやだなあ、こんな風になるの)
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